
はじめに - AutoDock Vina
AutoDockは、
30年近く開発が進められている、分子モデリングシミュレーションソフトウェアの一つです。
主に、タンパク質–リガンドのドッキングに利用されています。
2009年からオープンソース・ソフトウェアとなり、非商業的利用に関しては、無料で使用できます。
AutoDockは、過去には、HIV-1インテグラーゼ阻害剤の開発においても活用されました。
AutoDock Vinaは、
Oleg Trott 博士 (The Scripps Research Institute)らによって提供された、
AutoDock4の改良型ドッキングツール(AutoDockの後継)です。
Vinaの登場によって、計算の速度、ドッキング精度ともに大幅に改善されました。
原著論文 - AutoDock Vina -
AutoDock Vinaに関する原著論文は以下の2報となります。
"J. Eberhardt, D. Santos-Martins, A. F. Tillack, and S. Forli. (2021). AutoDock Vina 1.2.0: New Docking Methods, Expanded Force Field, and Python Bindings. Journal of Chemical Information and Modeling."
"O. Trott and A. J. Olson. (2010). AutoDock Vina: improving the speed and accuracy of docking with a new scoring function, efficient optimization, and multithreading. Journal of computational chemistry, 31(2), 455-461."
今回やること
M1チップ搭載の MacBook Airで、AutoDock Vina (ver 1.2.2)をセットアップしてみました。
その方法を、設定方法とともに、具体的なコマンドを説明しています。
今回、AutoDock Vinaは、ARM用のバージョンである「vina_1.2.2_macos_arm64」を使用しています。
brewの設定
まずは、Homebrewを設定します。
まだ設定されていない場合は、
過去の記事を参考に設定してください。
skume.net
brewコマンドを用いたパッケージのセットアップ
Macのターミナルを起動して、
所定のライブラリをbrewコマンドでインストールしていきます。
今回、インストールするのは、
boost、wget、gitのライブラリです。
brew install boost
brew install wget
brew install git
Autodock Vina 1.2.2のセットアップ
それでは、「Autodock Vina 1.2.2」のセットアップに入っていきます。
ここでは、wgetで「Autodock Vina 1.2.2」をダウンロードして、諸設定を行なっていきます。
wget https://github.com/ccsb-scripps/AutoDock-Vina/releases/download/v1.2.2/
vina_1.2.2_macos_arm64
mv vina_1.2.2_macos_arm64 vina
chmod +x vina
mv vina /opt/homebrew/bin
which vina
「vina」のパス設定が完了して、「which」コマンドで確認できたらOKです。
ここまで設定できたら、ヘルプが表示されるかどうかも確認してみます。
以下の-helpオプションで、ヘルプが表示されるはずです。
vina -help
これで、初めの設定は完了です。
AutoDock Vinaのチュートリアル「basic_docking」を実行してみる
次に、GitHubにあるAutodock Vinaのリポジトリをダンロードして、
そのチュートリアルのデータで動作検証をしてみます。
以下のgit cloneコマンドで、リポジトリを取得します。
git clone https://github.com/ccsb-scripps/AutoDock-Vina.git
今回は、exampleフォルダ内のbasic_docking
をサンプルとして試してみます。
このドッキングシミュレーションのbasic_docking
のサンプルは、
典型的な使用パターンで、剛体モデルの受容体に1つの分子をドッキングすることを行います。
具体的には、非受容体型チロシンキナーゼ c-Abl の立体構造に、
抗がん剤イマチニブ(Gleevec、PDB entry: 1iep)を
AutoDock Vinaを使用してドッキング実行を行います。
c-Ablは、癌原遺伝子チロシンプロテインキナーゼで、
このタンパク質は、がん化学療法、特に慢性骨髄性白血病の治療において重要な標的です。
それでは、Vinaの実行を試しますが、問題なく設定できていれば、
下記の2コマンドで、Dockingが実行されて、結果が表示されます。
cd ./AutoDock-Vina/example/basic_docking/solution
vina \
--receptor 1iep_receptor.pdbqt \
--ligand 1iep_ligand.pdbqt \
--config 1iep_receptor_vina_box.txt \
--exhaustiveness=32 \
--out 1iep_ligand_vina_out.pdbqt
--receptor
には、受容体タンパク質のpdbqtファイル名を指定します。
--ligand
には、リガンド(主に低分子化合物)のpdbqtファイル名を指定します。
--config
には、引数として与えていない条件設定をテキストファイルとして指定します。
--exhaustiveness
には、グローバル探索の網羅性を指定します(32が良いようです)。
--out
には、出力ファイル名を指定します。
実行時のコンソール表示
実行結果は、以下のような感じになります。
AutoDock Vina v1.2.2-22-gb5f8dc1-mod
Scoring function : vina
Rigid receptor: 1iep_receptor.pdbqt
Ligand: 1iep_ligand.pdbqt
Grid center: X 15.19 Y 53.903 Z 16.917
Grid size : X 20 Y 20 Z 20
Grid space : 0.375
Exhaustiveness: 32
CPU: 0
Verbosity: 1
Computing Vina grid ... done.
Performing docking (random seed: -885801442) ...
0% 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100%
|----|----|----|----|----|----|----|----|----|----|
***************************************************
mode | affinity | dist from best mode
| (kcal/mol) | rmsd l.b.| rmsd u.b.
-----+------------+----------+----------
1 -13.38 0 0
2 -11.4 2.993 12.41
3 -11.4 1.658 2.053
4 -11.15 3.869 12.31
5 -10.76 2.544 12.64
6 -10.1 1.988 13.73
7 -9.774 1.706 13.63
8 -9.695 2.683 12.64
9 -9.494 2.834 12.4
出力ファイルの結果表示
ここでは、1iep_ligand_vina_out.pdbqt
とういうファイルに、
構造データとBinding eneryなどの結果を出力されています。
head -n 20 1iep_ligand_vina_out.pdbqt
まとめ
(結構、詳細は省いているが)AutoDock Vinaのセットアップから、Dockingシミュレーションまでの実行方法を紹介しました。
AutoDOck Vinaは、M1 Macでも、意外にもサクッと実行できるという良いソフトウェアでした。
参考資料
skume.net
AutoDock Vina
autodock-vina.readthedocs.io
github.com
github.com